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2008/12/03

「た、たまらぬ」

有馬に程近い神戸での一仕事を終え、御流後の十三はひそかに根城に舞い戻っていた。時折急仕事をいくつか片付けつつ、大仕事の時をうかがっていたが、ようやく少しましな仕事をみつけた。しかし、その仕事先が、以前平蔵が居住していた鳴尾界隈、と知り、少し腰が引けているのも事実であった。そこで、根城に程近い長柄界隈の出先から調べをいれていた。

今日も長柄から、一味のおちあう盗人宿へと戻る道すがら、江戸にも響く天下の大商店街、そして盗人宿近くのそば屋の横を通るたび、「て、てんぷらそばが食いたい」という衝動に襲われた。

今では火麗(饂飩)改メ方としての名のほうが通っている平蔵であるが、江戸赴任時代は火盗改メの頭領「鬼の平蔵」であり、その名を知らぬもののない存在である。その手柄を伝える瓦版はおろか、池波何某というモノ書きの綴ったその捕り物帖は江戸中の武家で読まぬものはなく、庶民には絵草子や、芝居で親しまれているものである。

十三、今では駆け出しを少し越えたあたりの盗人の頭領ではあるが、そもそもは下級武士からの浪人くずれ。平蔵のことを知るべく、この書物を江戸からとりよせ、少しずつ紐解いていたのである

その中で十三の目を引いた、いや、口から手が出そうになったのが。。。「小柱のかきあげの天ぷらそば」である。

「ぬぅ、江戸にはこのようなてんぷらそばがあるのか。」

平塚の宿にいる知人の大鱚剣之介からもそのような話を聞いたことがあるが。。。そういう状態であったところに、道すがらただよってくる、出汁の香りと天ぷらのにおい、盗人宿での一味との会合を早々に終え、根城に戻る前に、なんとか旨い天ぷらそばを、と、なるのは当然といわざるを得ない。

根城界隈で十三がなじみとしているのは、信州の山寺で修行をした「そじ坊」なる僧jの弟子たちが営む蕎麦屋である。しかし、いつもそれでは芸がない。ここは一つ、より上等なものを探してみよう、と昨今大坂城界隈にできた芝居小屋併設の食事処の集う一角へと足を向けた。まだ先月末にできたところであり、探索の目がとどいていない一角であるが、大店の旦那衆が集うような店が多そうであり、上等なそばもあるにちがいない、と調べたところ「花水木」なる蕎麦を商う店を見つけた。

せっかくの機会であるし、戌の刻も過ぎている。そばだけを食べるのも味気ない。江戸の粋人のごとく、まずは酒とつまみを少し、書物などたしなみながらと、平蔵の捕物帖三の巻を仕入れ、冷酒といたわさを頼み、少ししてから天ぷらそばを持ってくるよう、なかなか愛嬌のある若い女中に注文をする。

まず酒が届き、ちびりちびりとやりながら、三の巻を読み進める。そのうち、いたわさが届けられる。

「ぬ?こ、これは。。。」

P1000203 かまぼこは普通の、しかし妙に色づけされたものではなく真白きものであるが、わさびが、、、違うのである。本わさびでもなく、これは。。。所謂わさび漬けであるな。なるほど、これは興味深い。おもむろにかまぼこに乗せ、醤油を少しつけ、口に運ぶ。

「ああ・・・・・・もう、たまらぬ」

三の巻の初め、平蔵が指圧を受けながら発するその科白が、思わず十三の口をつく。これはなんとも絶妙である。わさび単独の、いかにも味をつけるというのではなく、わさび漬け自体の味わいが重なってくる。当然、かまぼこがなくなっても、このわさび漬けで酒が進むというものである。

酒を飲み干し、そばが届くまでの間、少しあたりを見回す。周囲の客の多くは小皿に乗ったそばを数枚並べているものが目立つ。そう、ここは出石系のものが営む蕎麦屋であった。十三は少しあせりを覚えた。十三、先祖をたどれば但馬方面の出で、出石に赴き所謂皿蕎麦を食したことも数度。しかし、本当に旨いと思うものにはついぞであっていないのだ。

十三の前に置かれた天ぷらそばは、さすがに上等な店のものである。天ぷらが別におかれ、海老2尾に、野菜が4,5品。これは立派である。丼には、いかにも出石な、平たい麺が。まずは麺をすする。

P1000202 「まぁまぁだな」

麺も出汁も、天ぷらも悪くない。が、飛びぬけて良いというものでもない。良い店であるとは思うが、板わさが飛びぬけて印象に残るというのは。。。

「いかぬ」

またも平蔵の口癖が口をつく。

なんにせよ、この界隈はしばし探索を続ける必要があるだろう。そして平蔵捕物帖の著者である池波なにがし、彼も江戸では名の通った、粋人と聞く。酒や食、そして男っぷりについて書いたものもあるらしいので、それに触れることも、平蔵の秘密に迫る道ではないか、と考える十三であった。

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コメント

そばがきでぬる燗という手もあるよ
そのうち
池波正太郎の
『散歩のとき何か食べたくなって』
『むかしの味』
なども目をとおしてみてください
ボクはいま
『包丁ごよみ』をカバンに入れて
ちょいちょい読んでます


投稿: Sa. Sa. King | 2008/12/04 22:02

なるほど。そばがきは食べたことないですわ。
今後その辺も読んで行く所存。

投稿: ごるご十三 | 2008/12/04 23:07

僕も包丁ごよみは読みました。

実は最近そばがきにも興味津々なのです。

投稿: Kenneth.K | 2008/12/08 14:40

はい、土曜日は
「散歩のとき何か食べたくなって」
を読みながら梅田に向かい、あちこち
うろつく合間にも読み、
その後岩崎塾>多幸梅
ですた。

投稿: ごるご十三 | 2008/12/08 22:56

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